「僕らが生まれる7日間の舟歌(バルカロール)」遊ぶように届けるメッセージ

2019-09-26

今年、直島町では瀬戸内国際芸術祭の会場の一つとして、様々なイベントや展示が行われています。中でも、島の子供たちが参加した夏の音楽劇は、子供たちにとって素晴らしい経験になりました。そんな直島の未来を作るとても貴重な作品となった「僕らが生まれる7日間の舟歌(バルカロール)」をご紹介します!


作品の概要

瀬戸内国際芸術祭夏会期の作品の一つとして、演出・越智良江の「僕らが生まれる7日間の舟歌(バルカロール)」(2019年8月10~11日、八幡神社/香川県直島町)が瀬戸内の子供たちをキャストに上演された。公演は前半に観客参加型の神社参道ツアー、後半に境内での音楽劇という2部構成。
作品の内容は明示されていないが、私は本作品を瀬戸内を通して発せられる生の強さと尊さを伝えるメッセージだと受け取った。

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制作過程

制作は今年の春、島の公民館の一室で始まった。集まったキャストは直島から10名、広島から5名、合計15名の子供たち。そのほとんどが演劇未経験者であったため、一番最初の課題は観客に届く声を出すことだった。キャストには制作に関わることが求められ、越智 との創作活動が歌詞、台詞や動作となり音楽劇を構成していく。

本番が近づくと、染師の先生と衣装を染めるワークショップを開催。 越智によってそれぞれにデザインされた衣装をキャストは大事そうに染めていた。

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こうした制作過程を、キャストは越智と一緒に辿ることで、作品への愛情を育み、作品と共に成長して来た。稽古に立ち合った際、越智が自然に、そして、あっという間に子供たちの心を掴んだことに、驚き、感動したことを覚えている。

公演

まだ暑い夏の日差しの中、開演時間を迎えた。観客は当日パンフレットを受け取ると、それぞれ参道である階段を登って行く。境内にある、越智とキャストが考えた屋台「願いの水」「おみくじ」などに参加すると、それぞれが描いたオリジナルのスタンプをパンフレットに押してもらえる。真夏の野外公演、氷嚢や香りのついたおしぼりを配る屋台もあり、まるでお祭りのよう。ちょっと混雑したが、とてもユニークな体験だった。また、音楽劇に出てくる手拍子を知らず知らずに出演者から伝授されるという、面白い仕掛けもあった。
 
小さな島での公演は、都市部の公演のように演劇が好きな人だけが観たい時に観に行くようなものではない。参道ツアーでキャストが直接観客を迎え入れることで、観客とキャストの距離がぐっと近づく。会場での連鎖反応の始まりである。

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全ての観客が参道を登りきると、船の汽笛と生演奏のオルガンで音楽劇が始まる。

八幡神社の境内、参道の上がり口から本殿まで真っ直ぐに伸びる石畳と本殿前が本公演の舞台である。

境内の木々から虫たちの声援が響く中、卒業式から幕を開けた。「僕らが生まれる〜」というタイトルから、子供たちみんなの冒険か何かだろうと考えていたが、冒頭のシーンでそれは覆された。主役は、名前が“いなくなった”少年。もう一人の少年と共にお風呂の船に乗って、名前を探す旅に出る。「ときのながれにのって、まわりがかってにながされていく!」という少年の台詞がある、つまりお風呂に入っている間、少年の時間は進まず、周りの時間だけが流れていくと解釈できる。

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旅の始まりは、劇中“真っ暗な島”と表現されている。名前が“いなくなっ”て辿り着いた“真っ暗な島”。実はすぐにあの世だと思った。そこでは突如、賑やかにスイカ割りが催される。名前を探す少年は、スイカを割ったヒーローへの憧れを示す。それは、生きることへの憧れ。ヒーローは言う「おふろからあがったらまたあおうね」と。

またお風呂が流され、次は“海と空の島”へ。初恋の人との出会いと別れが描かれる。暗闇=あの世から脱し、次の人生のスタート地点へ向かい始めたのだろう。そして人生の節目ごとに、主役の少年は片道切符か往復切符か、船長に選択を迫られる。次のシーン、受験生になった少年は初めて片道を選ぶが、船長からは往復を渡されてしまう。そして、大人になってからの都会での同級生との再会、出産と人生をなぞるようなシーンが展開されていく。それぞれのシーンでは長縄跳びをしたり、キャストよりも大きな風船を割れるまでふくらましたり!観客の意表を突くたくさんの遊びとメッセージがパラレルに展開し、バルカロールの世界に観客は入っていく。

越智の遊びは終わらない。人生も後半に入ると思われた中盤、がらっと流れが変わる。どうやら2人の少年は晴れ、雨、雪、嵐の日、、、そして、生命の誕生という自然の摂理を体験していく。場面ごとに流れる昭和の懐かしい歌、最近のアイドルの歌、時代を超える曲に観客席からも手拍子が!歌いながら、踊りながら、子供たちは舞台の端から端までコミカルに動き回り、私たちをさらに巻き込んでいく。ここでも越智は遊びを忘れてはいない。このパートの最後のシーン“生命の誕生”では、壮大な威風堂々の曲をバックに、鳴き声クイズが出題される。答えの動物が、いくつもアドリブで生まれた。

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クライマックスである最後の切符の選択で、彼は狛犬を抱えたパパとママに励まされ、ついに片道切符を手にする。出航を表す汽笛が鳴り、いよいよお風呂から上がる時が来る。新たな旅立ち。それは、新たな命の始まりを意味するのだろう。

一緒にお風呂で旅をしてきたもう一人の少年は、主役の彼の分身だったのではないか。生を受けることへの葛藤が2人を生み、時には協力し、時には違う意見を持って旅をしてきたのだと感じた。そして、分身の少年が先にお風呂から上がる時を迎える。

終盤、2度目の卒業式。その中で、キャスト全員がそれぞれの名前の由来を述べるシーンがある。名前と由来だけのシンプルな台詞だが、生まれて来た喜び、感謝、温かな命の尊さが、キャストの全身から溢れていた。最後に、主役の少年は名前が見つからないままお風呂から上がる。つまりそれが真っ暗な島”から始まった彼の旅の終わり、新たな旅の始まりであり、彼の誕生の時を示していたのではないか。

そして舞台はカーテンコールへ。カーテンコールの歌詞は、島の中と外を繋ぐ言葉で綴られた直島への賛歌であり、彼らの感謝の気持ちであり、彼らの旅の舟歌だった。歌声は、参道を下り、海まで響いていた。

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観劇直後、パレードが通りすぎた後のように、楽しさと寂しさが一緒に飛んできたような感覚に襲われた。終始遊んでいるようにも見えたキャストの子供たち。それでいて彼らが持っているエネルギーがしっかり輝いて見えたのは、越智からのメッセージが劇中にしっかり落とし込まれていたからだ。越智が子どもたちの心を動かしたあの最初の瞬間は、演出家として本番で観客の心を動かす瞬間を見据えた、その第一歩に過ぎなかったのだと気付かされた。

演劇の未来をつくる演出

さて、本公演は様々な受け取り方が許容されている。明確なストーリーを求める観客には向かなかったかもしれない。演技力が云々というだけの議論にも合わない。しかし、私は繰り返される遊びの中に、心を動かされるような生の輝きを強く感じることができた。

キャストである子供たちも、舞台上で心と体で感じた感動を、生涯忘れることができないだろう。越智によって開かれた演劇の扉が、彼らの未来、演劇の未来を作っていくに違いない。

越智は自ら起点となり、演劇を媒介に人の心を動かしていく。その連鎖が連鎖を呼び、感動を大きくしていく。彼女はいつも飛び跳ねるように動いている。演出の力で、私達をどこへでも連れて行ってくれそうな気がした。

                                    (山岸紗恵)

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2019-09-26 |

 

 

 

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